《十二月九日(月)》血を流すことなく抗ひ得るものか見なかつた知らなかつたと声は
あまりにも多くの血が流れたではないですか。その血を見なかったふりなどできるはずがありません。先に逝った方たちの魂が、目を見開いて私たちを見守っています。/男性の言葉尻がひび割れている。繰り返される血という単語が何となく胸を重苦しくし、君は再び口を開けて深呼吸をする。/魂には体がないのに、どうやって目を開けて僕たちを見守るんだろう。
『少年が来る』(クオン刊 ハン・ガン著 井出俊作訳)
著者略歴
大口玲子(おおぐち・りょうこ)
1969年東京都大田区生まれ。宮城県仙台市、石巻市を経て、現在は宮崎県宮崎市在住。1998年、「ナショナリズムの夕立」で第四十四回角川短歌賞受賞。
歌集に『海量』、『東北』、『ひたかみ』、『トリサンナイタ』、『桜の木にのぼる人』、『ザベリオ』、『自由』、歌文集に『セレクション歌人5 大口玲子集』『神のパズル』がある。「心の花」会員。宮崎日日新聞「宮日文芸」短歌欄選者。牧水・短歌甲子園審査員。
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