《一月五日》初芝居幕上がるたび別の街

劇場へ。木の床が鳴る。知らない人たちと並んで、同じ闇に座り、同じ光を待つ。幕が上がった瞬間、空気がひとつになる。飛び交う台詞が舞台と客席を結び、ばらばらの孤独がひとつの物語に寄り集まって、不意に笑ったり、涙をこらえたり。幕が下りて、灯りがともる。魔法がとけて、世界は元通り。でもポケットの底には残っている。どこからともわからない光の残りかすが、ひっそりと。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 1月7日:初風が未来のページくしゃくしゃに
  • 1月6日:門松に旅路の砂が舞い残る
  • 1月5日:初芝居幕上がるたび別の街
  • 1月4日:初馬卡龍金箔舌尖摩天楼
  • 1月3日:獅子舞の影が煙草をふかしてる
  • 1月2日:初夢のポケットにある贋の鍵
  • 1月1日:初日の出瓦礫の街に風が吹く

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