劇場へ。木の床が鳴る。知らない人たちと並んで、同じ闇に座り、同じ光を待つ。幕が上がった瞬間、空気がひとつになる。飛び交う台詞が舞台と客席を結び、ばらばらの孤独がひとつの物語に寄り集まって、不意に笑ったり、涙をこらえたり。幕が下りて、灯りがともる。魔法がとけて、世界は元通り。でもポケットの底には残っている。どこからともわからない光の残りかすが、ひっそりと。
著者略歴
小津夜景(おづ・やけい)
1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。
(ヘッダー写真:小津夜景)
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