朝、テーブルの上の独楽が目に入る。ゆうべ酔っ払った知人が回して、そのまま息絶えたものだ。妙にドラマティックな絶命であった。独楽は止まればただの塊、しかし回れば周囲の空間を液状化しつつ、全時間の渦の中心を統べるかの風情。にわかに興が乗り、「独楽舞うや円の縁より円を生み」「独楽立てり静と動との交点に」 「独楽転び円周率の端を打つ」などと詠む。今もまだゆうべの回転が、静止のなかに響いている。
著者略歴
小津夜景(おづ・やけい)
1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。
(ヘッダー写真:小津夜景)
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