《一月八日》独楽みて虚数の軸に宿る影

朝、テーブルの上の独楽が目に入る。ゆうべ酔っ払った知人が回して、そのまま息絶えたものだ。妙にドラマティックな絶命であった。独楽は止まればただの塊、しかし回れば周囲の空間を液状化しつつ、全時間の渦の中心を統べるかの風情。にわかに興が乗り、「独楽舞うや円の縁より円を生み」「独楽立てり静と動との交点に」 「独楽転び円周率の端を打つ」などと詠む。今もまだゆうべの回転が、静止のなかに響いている。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 1月9日:凍てつくや木靴の響き天を割り
  • 1月8日:独楽已みて虚数の軸に宿る影
  • 1月7日:初風が未来のページくしゃくしゃに
  • 1月6日:門松に旅路の砂が舞い残る
  • 1月5日:初芝居幕上がるたび別の街
  • 1月4日:初馬卡龍金箔舌尖摩天楼
  • 1月3日:獅子舞の影が煙草をふかしてる
  • 1月2日:初夢のポケットにある贋の鍵
  • 1月1日:初日の出瓦礫の街に風が吹く

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