《二月三日》風船の影なきままに風の骨

空に棲む時間という名の深空魚。その体表から剥がれ落ちた文字が、ひとつ、またひとつ、結ばれあって雲となり、流れていく。雲が空に吸い込まれるたび、わたしの心にも小さな穴があく。それは、埋まるでもなく、ただそこにある。しんとして、触れることのできない、名のない穴。その宝物をなくしてしまうのがいやだ。理由を訊かれても、答える言葉が見つからない。ただ、そういうものだと思ってほしい。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

無断転載・複製禁止

バックナンバー

  • 2月4日:塔の影カリギュラめきて蜃楼
  • 2月3日:風船の影なきままに風の骨
  • 2月2日:しほさゐにしじまを宿し虚貝
  • 2月1日:泡の手につつむ淡菜の二、三片

俳句結社紹介

Twitter