
《二月四日》塔の影カリギュラめきて蜃楼
また塔のてっぺんが動いている。ほんのわずかに。風もないのに。でも、どんなに時間の支配を望んだところで、こぼれた文字の一粒すら、人間の思うままにはならないだろう。わたしは網を引き寄せ、そっと手のひらに文字をのせた。小さく震えている。羽毛みたいに軽く、消え入りそうな存在。時間のかけら。指でそっと押さえる。けれど、そうすることでさえ、逃げ道を与えてしまうのだ。捕まえた、と思った途端、するりと抜けていく。塔は監視を続けている。
無断転載・複製禁止
また塔のてっぺんが動いている。ほんのわずかに。風もないのに。でも、どんなに時間の支配を望んだところで、こぼれた文字の一粒すら、人間の思うままにはならないだろう。わたしは網を引き寄せ、そっと手のひらに文字をのせた。小さく震えている。羽毛みたいに軽く、消え入りそうな存在。時間のかけら。指でそっと押さえる。けれど、そうすることでさえ、逃げ道を与えてしまうのだ。捕まえた、と思った途端、するりと抜けていく。塔は監視を続けている。
無断転載・複製禁止