
《三月十三日》クロッカスひとつ遅れて鳴る時計
雲だ。雲だ。男は歓喜し、木に駆け寄った。白い塊をつまみ、口に運ぶ。食べるほどに、体が軽くなる。空に吸い寄せられるように、浮いた。ふと気がつけばそこは木のてっぺん。見上げれば、ぽっかりと空洞があり、すんでのところで頭を突っ込みかねなかった。あわててもがいたが、もう遅い。男はそのまま空洞へと滑り落ち、天へとめり込み、絶命した。わたしの父は若いころ、この伝承を耳にし、シダラン島へ向かった。
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雲だ。雲だ。男は歓喜し、木に駆け寄った。白い塊をつまみ、口に運ぶ。食べるほどに、体が軽くなる。空に吸い寄せられるように、浮いた。ふと気がつけばそこは木のてっぺん。見上げれば、ぽっかりと空洞があり、すんでのところで頭を突っ込みかねなかった。あわててもがいたが、もう遅い。男はそのまま空洞へと滑り落ち、天へとめり込み、絶命した。わたしの父は若いころ、この伝承を耳にし、シダラン島へ向かった。
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