
《三月二十九日》ささやきは霾るファドの遠き熱
昔も、月を食べたことはあった。 でも、こんなものを見たことはない。目が開くのは、熟れすぎた月だけだ。昔、父がそう言っていたのを急に思い出した。そういえば、子どもの頃に食べた月は、もっと淡い、青い光を放っていた。今、手の中にある月とは違う。果肉が赤い。さらに問題は、わたしを見ていることだ。月の瞳にうつる自分の瞳の奥に、父がいるような気がした
無断転載・複製禁止
昔も、月を食べたことはあった。 でも、こんなものを見たことはない。目が開くのは、熟れすぎた月だけだ。昔、父がそう言っていたのを急に思い出した。そういえば、子どもの頃に食べた月は、もっと淡い、青い光を放っていた。今、手の中にある月とは違う。果肉が赤い。さらに問題は、わたしを見ていることだ。月の瞳にうつる自分の瞳の奥に、父がいるような気がした
無断転載・複製禁止