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《三月二十九日》筑紫のや豊前国とよのみちのくちのくに企救郡きくのこほりに我が生ひ成りつ

私が生まれたのは昭和十二年当時の福岡県八幡市。国策会社八幡製鉄所の企業城下町だが、かつてその上空を翼持つ歌魂がよぎったと考える恣意は許されようか。生後間無くの父の急逝により、父の実家のある直方、八女、ふたたび直方を経て、小学校一年生の夏から肺結核罹病で二年遅れた大学卒業まで多く過ごしたのは旧名豊前国企救郡門司だいごう

著者略歴

高橋睦郎(たかはし・むつお)

昭和12年12月15日、北九州八幡に生まれる。少年時代より詩、短歌、俳句、散文を併作。のち、新作能、狂言、淨瑠璃、オペラ臺本などを加へる傍ら、古典文藝、藝能の再見を続ける。 詩集『王国の構造』(藤村記念歴程賞)、句歌集『稽古飲食』(読売文学賞)、詩集『兎の庭』(高見順賞)、『旅の絵』(現代詩花椿賞)、『姉の島』(詩歌文学館賞)、『永遠まで』(現代詩人賞)、句集『十年』(蛇笏賞、俳句四季大賞)。 歌集に『道饗』、『爾比麻久良にひまくら』、『虚音集』、『待たな終末』、『狂はば如何に』など。 藝術院會員。2024年に文化勲章受章。 (Photo : Jorgen Axelvall)

 

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バックナンバー

  • 4月1日:字大里すなはち内裏大内を畏み大き里を当てしか
  • 3月31日:企救郡文字が関処に生ひ成れや一生をかけて読み書きぞする
  • 3月30日:郡名の企救に因めや先づ聞くに始まり言葉・文字と関はる
  • 3月29日:筑紫のや豊前国企救郡に我が生ひ成りつ
  • 3月28日:大翼よぎる下影しらしらと波寄る州のしらぬひ筑紫
  • 3月27日:野を亘り海に出で空の靑に染み見えずなりしか歌の翼
  • 3月26日:大翼変若ちしいのちと仰がむか変身りし歌と眩しまむかも
  • 3月25日:神風の伊勢の能煩野に築きし塚そこ脱け翔ちし大き翼は
  • 3月24日:嘉されしいのちの数に友のみか仇のいのちも雑てよ必ず
  • 3月23日:全からずなりしいのちに嘉されて全きいのちぞいよよ全かれ
  • 3月22日:いのちの全けむ人と歌ひいづ全からずなりし心弱りに
  • 3月21日:ますらをのいのち病むとき泉如す涌きこそ出づれ歌のまことは
  • 3月20日:従はぬ敵平くと旅の果て氷雨に遇ふや一生傾く
  • 3月19日:不知火や熊曽建を新床に刺し献られし贈り名建
  • 3月18日:はしけやし倭童男ぞ髻髪処女さびせど猛き雄ごころ
  • 3月17日:葦原の醜男も祀り籠められて幾代ののちをさすらふや誰
  • 3月16日:すさのをの行末知らずいつしかもさすらふ神は葦原醜男
  • 3月15日:逐はるる先やいづかた八雲立つ出雲四方八方晦き荒土
  • 3月14日:天つ罪国つ罪そのことごとく冒しやまねば追ひ逐はれき
  • 3月13日:訴ふるすなはち睦ぶ睦ぶこそ手抱きまながり婬れ姦くか
  • 3月12日:哭きいさち泣きすさぶ共母戀ふと父に憎まれ姉に訴ふ
  • 3月11日:さすらひの原初に置かむすさのをぞ哭きいさち日を暗めすさびぬ
  • 3月10日:先づされくものは神神 神神のされくゆゑこそ人はさるけれ
  • 3月9日:久方の昼の現にさるくにて足らさればされく真夜も夢見に
  • 3月8日:走り飛ぶもののみならず土深く根づけるものもされく枝葉もて
  • 3月7日:地にけもの空に虫鳥 海に魚いのちといふはされきさるくを
  • 3月6日:彼されき我さるき死ぬるまでされき死にせむのちもさるき倒さむ
  • 3月5日:恭平のされくは歌ひ描き書き土を耕へし海に糸垂る
  • 3月4日:道子・京二されき亡すともされき継ぐ新魂はあり坂口恭平
  • 3月3日:思ひきや木乃伊さびする道子乗せ押しし京二もされき亡すとは
  • 3月2日:木乃伊さぶ道子乗せたる車椅子押しされきけり渡辺京二

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