《四月八日》湯を抱きて眠るネフェルの頬に花

風呂から出たら鏡が真っ白。でも拭かず、なんとなく電気も消したりして、暗闇のなかタオルで髪をこすった。赤い糸で花が縫ってある古いタオル。捨てようと思っているのだけれど、なんとなく今日もつかった。寝るとき、枕から湯の匂いがして、思わず鼻を近づけた。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 4月8日:湯を抱きて眠るネフェルの頬に花
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  • 4月5日:馬酔木咲く儀礼の皿に日を沈め
  • 4月4日:沈丁花ひとりごとの向きが変わる
  • 4月3日:木蓮のしろきを淡めミルラ煮ゆ
  • 4月2日:蓴生う起爆せぬ語のピンを抜く
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