《四月十四日》巻かれざる巻物の墨花に濡れ

昔のノートを見ていたら、ああ、ってなった。なにが、っていうと、自分の字が、ぴょんと立っていたから。立ちすぎてた。そんなに立たなくてもよくない?って思ったけど、もう遅い。そのころの字は、とにかく勢いがあって、いまよりいろんなことを信じてる感じがした。いまは、座ってる。字が。しかも、しばらく寝て起きたときの、くにゃっとした座りかた。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 4月16日:花水木こたえがきれいすぎて消す
  • 4月15日:躑躅見ていたのはたぶん僕じゃない
  • 4月14日:巻かれざる巻物の墨花に濡れ
  • 4月13日:ファドのなき枝のさくらが夜を照らす 
  • 4月12日:逃げ水をまたいだときに鳴る拍手
  • 4月11日:「ごめん」って言われたあとも咲いていた
  • 4月10日:煮豆なるわれにアザーン遠き春
  • 4月9日:アネモネや幻都にひとつ塩の門
  • 4月8日:湯を抱きて眠るネフェルの頬に花
  • 4月7日:桃ひらく古書の行間うっすら雨
  • 4月6日:鳴るまえのベルのようなる麻疹かな
  • 4月5日:馬酔木咲く儀礼の皿に日を沈め
  • 4月4日:沈丁花ひとりごとの向きが変わる
  • 4月3日:木蓮のしろきを淡めミルラ煮ゆ
  • 4月2日:蓴生う起爆せぬ語のピンを抜く
  • 4月1日:蜃気楼メニューは深煎りひとつだけ

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