
《六月二十五日》暑き日や郵便受けに手がはいる
──名前が消えると、場所は場所でなくなります。その空白に、別の重さが流れ込む。
名前のない駅。彼女はそこを知っているような気がした。誰かを見送った記憶。けれど誰だったか、どうしてだったかは、思い出せない。冬の朝、ストッキング越しに足元からじわじわと冷えたこと。切符を渡すとき、言葉を探して、それでもなにも言わなかったあのときの感じ。ポケットのなかの指先の冷たさだけが、今もずっと残っている。
無断転載・複製禁止
──名前が消えると、場所は場所でなくなります。その空白に、別の重さが流れ込む。
名前のない駅。彼女はそこを知っているような気がした。誰かを見送った記憶。けれど誰だったか、どうしてだったかは、思い出せない。冬の朝、ストッキング越しに足元からじわじわと冷えたこと。切符を渡すとき、言葉を探して、それでもなにも言わなかったあのときの感じ。ポケットのなかの指先の冷たさだけが、今もずっと残っている。
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