《七月八日》都市熱にゆれるテスラと蜘蛛の糸

日本の役所の人と電話で話した。大事な用だった。こちらも真剣で、メモなんかも用意して、準備万端のつもりだったのだが――話が始まって早々、「させていただく」と「おられる」と「のほう」が、ぐるぐる三回転して、何を言っているのか、まったくわからなくなった。
知らない香辛料を自己流で組み合わせて、ぐちゃぐちゃに混ぜたごはんを出されたような、そんな味の敬語だった。作ってる人はたぶん、「きちんとしてる」つもりなのだろう。でも、食べる人のことは考えていない。
もっと、日本語がシンプルになればいいのに、とそっと祈る。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 7月8日:都市熱にゆれるテスラと蜘蛛の糸
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  • 7月5日:風死してウディ・アレンの茹でた豆
  • 7月4日:フロイトの夢に蛾の影ひとつふえ
  • 7月3日:百足またボルヘスの書を這ふ夜かな
  • 7月2日:蚤を飼ふシェイクスピアの失恋記
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