《七月十八日》虹の果てバゲット抱けば乳母車

歩くとき、朗読を聴いている。これがなかなかいい。
本を読むというのは、案外むずかしい行為だ。座って開いたまではよくても、すぐに他のことを考えはじめてしまう。読むとは、本質的に「脱線」する行為なのかもしれない。
けれど歩きながら聴いていると、不思議と集中できる。身体が前に進むことで、言葉も自然と進んでいく。足を動かすたびに、段落が流れ、景色が変わる。読むことと歩くことには、どこか通じるリズムがある。
読むとは、流れに身を置くことなのだと思う。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 7月18日:虹の果てバゲット抱けば乳母車
  • 7月17日:虹去りて泣き子負ひたる修道士
  • 7月16日:虹立つや見るものすべて逆しまに
  • 7月15日:夏座敷ガーゼのやうな陽が滲む
  • 7月14日:死ぬあたし氷川きよしがきこえてる
  • 7月13日:蛍火の語源は古くLatinのluc
  • 7月12日:優曇華を孕みてバルト眠れずに
  • 7月11日:空き家より盗聴器出るふのりの夜
  • 7月10日:大航海時代の夢を蚊は吸へり
  • 7月9日:残像の市やパパイヤ置き去られ
  • 7月8日:都市熱にゆれるテスラと蜘蛛の糸
  • 7月7日:出欠表の端に死ぬ風ふととまる
  • 7月6日:ジョイス読む蟷螂いつも逆さまに
  • 7月5日:風死してウディ・アレンの茹でた豆
  • 7月4日:フロイトの夢に蛾の影ひとつふえ
  • 7月3日:百足またボルヘスの書を這ふ夜かな
  • 7月2日:蚤を飼ふシェイクスピアの失恋記
  • 7月1日:打ち水や梁をくゆらし光の緒

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