《八月五日》風死せりわたし透明すぎるのか

自動ドアに無視されがち、と思っている人はたぶんうじゃうじゃいる。わたしもそのひとりだ。今日はどのくらい無視されるか、ドアの前で立つ位置を微妙にずらしたりして、開かないことを楽しんでいる。すっと開いてしまうと「あっ体がセンサーに当たってしまった……」と、かえって残念に思う。まるで黒ひげ危機一発で、刺した剣が当たってしまった時みたいに。人形が飛び出すときのあの「しまった」感と、ちょっと似ている。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 8月5日:風死せりわたし透明すぎるのか
  • 8月4日:海月浮くいにしへびとの袖のごと
  • 8月3日:夕立や水の輪切って踏むペダル
  • 8月2日:夕立やサドルにひとつ空の花
  • 8月1日:片蔭の客は気まぐれ書生ども

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