《十月十八日》アフのこゑ雨にうつろふ柿に似て

つぎに載っていたのが、過去一世紀分の地震情報と洪水情報である。そして中盤以降は、アパートが建ってからの管理組合の議事録や会計帳簿となる。いついつにエントランスの修理にいくらかかったとか、あなたが購入しようとしている物件では過去にどんな工事が行われたとか、役員選挙とか、そういった細かい記録が淡々と続いていた。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 10月18日:アフのこゑ雨にうつろふ柿に似て
  • 10月17日:つぶれたひかりにふれてにんげんがうごく
  • 10月16日:しづかな裏へ短剣かくす秋風や
  • 10月15日:稲妻をまちがへて眼がふえてくる
  • 10月14日:水脈オーみちていさよふとんぼかな
  • 10月13日:声隊ルー鯊のひれにもふれにけり
  • 10月12日:ヴォを呼べば花野は翳のままひろし
  • 10月11日:萩の雨こゑのたましいをかすめる
  • 10月10日:笑ひだす甕のひとくれ鮭颪
  • 10月9日:仮面だけ秋祭りからもどらない
  • 10月8日:こゑが壁ぬけてゆく絵の鈴鹿かな
  • 10月7日:美術展ガラスの笛を抱く子かな
  • 10月6日:糸ひらめく秋の書のいまこの頁
  • 10月5日:虫売のこゑに壊れてしまひけり
  • 10月4日:触角だけでつづられる遠い便り
  • 10月3日:松茸飯塔のひざまで夜が来る
  • 10月2日:鵙啼いて水は過去形になりぬ
  • 10月1日:木犀やお帰りの手は濡れたまま

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