《十二月十三日》小春日の誰も読まない雑誌棚

カフェに入ったら雑誌棚があって、おお、まだこういうの置く店があるのかと感心した。ぱらぱら見てみると、なぜか猫の特集ばかりである。店の奥ではコーヒー豆を挽く音がしていて、これはまあ普通だが、手前の席の人が水だけ飲んで、するりと帰っていったのには驚いた。水だけ、である。そんな去り方をする人を、これまでの人生で見たことがない。なんだったのだろう。猫と水の店か。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

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