《十二月二十五日》服欲を屠りし冬の女かな

今年は人生でいちばん服を買わなかった年だ。一月に、フロントジップの黒のワンピース二着とキャミソール二着を買って、終了。服欲という名の猛獣を真顔で成敗し、いまあるものを着回す生活を送った。後半にはパジャマが消滅したが補充はしなかった。風呂上がりは服のまま就寝、起きてそのまま翌日へ。なんでこんなことをしたかというと考える事柄を減らすためである。脳の容量に余裕がなく、そういう対策をとったというわけ。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 12月25日:服欲を屠りし冬の女かな
  • 12月24日:クリスマスキャロル誤訳の神へ礼
  • 12月23日:濡れながら木の内臓に触れしかな
  • 12月22日:待合の面へみしみし降る楽章
  • 12月21日:月といふ名のみ流れて凍る家
  • 12月20日:まろきもの月とも日とも知らず冬
  • 12月19日:着膨れて声のたまごを抱き歩く
  • 12月18日:冬日差す出やすき場所のうすき影
  • 12月17日:贈られて冬の透明すこし増す
  • 12月16日:節を秘め歩く京都の冬木立
  • 12月15日:冬の鳩ふくらんだまま赤信号
  • 12月14日:霜柱バゲット一本買って出る
  • 12月13日:小春日の誰も読まない雑誌棚
  • 12月12日:あなぐまの夢よりさめて妻の怒気
  • 12月11日:風邪ひいてほめられたことばかり思ふ
  • 12月10日:蜜柑むくみんなの手から夜がこぼれる
  • 12月9日:短日やバターたっぷりのごほうび
  • 12月8日:炬燵から出ずに謝る午後三時
  • 12月7日:寒昴みづのゆらぎの底までも
  • 12月6日:ねずみもちひとは名づけるのが上手
  • 12月5日:冬の波ちょっと小走りになる夕
  • 12月4日:扉絵のごとき静けさ冬の家
  • 12月3日:枯蔦のくるんとしたとこ好きになる
  • 12月2日:落葉ふわっと乗っかってくる上目づかい
  • 12月1日:狐火が遠くて今日の皿が割れ

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