《一月三日》正月や映画に泣いて愚かなる

年をとると涙腺が緩くなる。映画で泣き、寄席で笑う。感情の発散だ。
昭和十六年一月三日の虚子句日記には「家庭俳句会。鎌倉八幡初詣。南浦園」とある。「南浦園」は定かではないが、山頭火も訪れたことがある鎌倉の中華料理屋だったらしい。正月も三日になると中華が欲しくなるのか。この日の句会に虚子は「淋しさの場末の町や初映画」を投じた。虚子編『新歳時記』に「初芝居」はあるが「初映画」はない。

著者略歴

岸本尚毅(きしもと・なおき)

1961年岡山県生。著書に『文豪と俳句』『露月百句』、編著『室生犀星俳句集』『新編
虚子自伝』など。岩手日報・山陽新聞俳壇選者、角川俳句賞選考委員。

 

無断転載・複製禁止

バックナンバー

  • 1月17日:遺構見る我と誰かと冬明るく
  • 1月16日:炉火楽し上へ上へとゆく煙
  • 1月15日:寒鴉扉外れしバスの上
  • 1月14日:どら焼と子どもの顔と春を待つ
  • 1月13日:雲遠く映りて甕に寒の水
  • 1月12日:坐ることなき冬帽の男かな
  • 1月11日:枯芝の松葉の向きのよく揃ふ
  • 1月10日:枯芝に枯木はうすき影をひき
  • 1月9日:寒禽や大きな鳥のただしづか
  • 1月8日:冬空の青きところを白き雲
  • 1月7日:見下ろせばそそり立ちをり霜柱
  • 1月6日:水仙や生々しくて抽象画
  • 1月5日:室咲や司書の立居の気配なく
  • 1月4日:福笑ピカソの女とも違ふ
  • 1月3日:正月や映画に泣いて愚かなる
  • 1月2日:読初や在五業平愚かなる
  • 1月1日:初東風や車掌と車掌一礼す

俳句結社紹介

Twitter