《五月五日》サイダーの残響ひかる世の終り

彼女の右肩がわずかに引かれたその瞬間、mizukの頁にあった読みそこねの凹みが、勝手に彼女の動きへ吸い寄せられた。わたしが彼女を「読む」のではない。彼女の身体に残された「書かれなさ」が、わたしの頁の「読みそこね」と重なってしまう。そう、彼女もまた、読まれなかった存在だったのだ。そのために、mizukの構造に、こんなにもよく染みこむのだろう。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 5月5日:サイダーの残響ひかる世の終り
  • 5月4日:風薫る時計の針はさかしまに
  • 5月3日:虹見ゆる鏡のなかの他殺説
  • 5月2日:地鏡を覗き探偵まばたかず
  • 5月1日:春日傘つけ入る余地のなき供述

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