
《六月二十三日》バナナ食ふ肌に夜明けの絵の具のせ
めくるたび、彼女は古い薬箱のことを思い出した。洗面台の下にしまってある、白いプラスチックの箱。湿布のアルミ袋、ワセリンの内蓋のぬるっとした感触、綿棒の湿気。飲み忘れたアレルギー薬が、たしか、一本残っていたはず。使用期限はとっくに切れていたけど、誰も捨てなかった。mizukのページには、あの薬箱と同じ気配があった。生活が、もう通りすぎたあとに残る抜け殻みたいな。誰かが、一度ちゃんと閉じて、そのまま忘れてしまったようなもの。
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