《九月三日》腕の虫弾きとばせし夜食かな

一九七六年一月十日の毎日新聞から。

――鴨翔つや雪山の景立ち直り

の一句がある。原句は下五が「立ち上り」であった。この一字添削の中に大虚子の大鉄鎚てっついがある。先生七十四歳、私が二十二歳の冬であった――

同じ年の「青」二月号に転載されていた。魚目の文章だ。この一字の添削にはしびれた。

●季語=夜食(秋)

著者略歴

山口昭男(やまぐち・あきお)

1955年兵庫県生まれ。波多野爽波、田中裕明に師事。 「秋草」主宰。句集に『書信』『讀本』『木簡』(第69回読売文学賞) 『礫』、著書に『言葉の力を鍛える俳句の授業―ワンランク上の俳句を目指して』『シリーズ自句自解Ⅱ ベスト100 山口昭男』『波多野爽波の百句』がある。日本文藝家協会会員

 

 

 

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