《九月三日(火)》桂川を渡る電車ゆ母とわれ少女となりて遊びゐる見ゆ

京都市西京区に住んでいる叔母と会う。母の七歳下の妹。阪急電車に乗っていてふと目を上げたら、母の実家があった西京極駅を通過し、みるみる桂川を渡り、陸上自衛隊桂駐屯地の戦車が一瞬見えて過ぎていった。

著者略歴

大口玲子(おおぐち・りょうこ)

1969年東京都大田区生まれ。宮城県仙台市、石巻市を経て、現在は宮崎県宮崎市在住。1998年、「ナショナリズムの夕立」で第四十四回角川短歌賞受賞。
歌集に『海量ハイリャン』、『東北』、『ひたかみ』、『トリサンナイタ』、『桜の木にのぼる人』、『ザベリオ』、『自由』、歌文集に『セレクション歌人5 大口玲子集』『神のパズル』がある。「心の花」会員。宮崎日日新聞「宮日文芸」短歌欄選者。牧水・短歌甲子園審査員。

 

 

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バックナンバー

  • 9月17日:満月は明日と思ひて仰ぎたり祈りは祈る者を変へゆく
  • 9月16日:日差しやや翳りたる夕べ卓上に麦茶とくるみあんぱんがある
  • 9月15日:AirPods耳から垂らし不機嫌な息子にとつてイエスとは誰か
  • 9月14日:われは子のこゑさへ聞かずまして子の弾くオルガンをひとたびも聞かず
  • 9月13日:スクワットするとき風を見るわれにはるかなりけりギリシャの風車
  • 9月12日:夢に迷ふターミナル駅 行き先が見えてゐるのに乗り場は見えず
  • 9月11日:少ししか食べなくなつた母に送るすぐき漬けレターパックにつめて
  • 9月10日:夢のやうにおいしいレーズン花林糖、くわりんたうほど甘い母でいい
  • 9月9日:人間が人間を殺すこといかに見てゐる木々か紅葉の前
  • 9月8日:秋空の深みへ息子の目と耳が大きく開かれゆかむ日曜
  • 9月7日:少しづつわれを冷やして運びゆく高速バスに飲む烏龍茶
  • 9月6日:夢に聴く秋風のおと波のおとわが喘鳴となりて目覚めぬ
  • 9月5日:いきいきと母が話せる明るさの馬酔木には小さき実のなる頃か
  • 9月4日:宮崎はもうふるさとであるやうな夕焼け坂の上から見れば
  • 9月3日:桂川を渡る電車ゆ母とわれ少女となりて遊びゐる見ゆ
  • 9月2日:皿の上に冷えていちじく五つあり母ゐなければひとりで食べる
  • 9月1日:怒鳴られつつ思ふイエスよ人間にどう思はれてもいいと思つた

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