《一月三日》獅子舞の影が煙草をふかしてる

鈴の音がして、獅子舞が来る。赤い布がひらりと揺れて、獅子が跳ねる。道の真ん中をゆっくりと。眺めていると、なにかが遠い。そこだけ別の時間が流れているようだ。文明の匂いと、忘れられた異国の記憶。ふたつが、ゆらゆらと交わっている。店先で、菓子をひとつ買う。甘い香りが手に残る。振り返ると、獅子はもういない。鈴の音だけがかすかに聞こえる。夕暮れのかたすみで、小さな息をしていた。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 1月5日:初芝居幕上がるたび別の街
  • 1月4日:初馬卡龍金箔舌尖摩天楼
  • 1月3日:獅子舞の影が煙草をふかしてる
  • 1月2日:初夢のポケットにある贋の鍵
  • 1月1日:初日の出瓦礫の街に風が吹く

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