《一月四日》初馬マ卡カ龍ロン金箔きんぱく舌尖ぜつせん摩ま天楼てんろう
初マカロンをば食ひつる。賀正めきたる、いとあはき色のマカロンを、漆の盆に盛りて茶を啜る。初めて噛みたる時、まことかそけき夢のごとく覚ゆ。されど重ねて口に含めば、わが身に沁み渡るを悟りぬ。ふと「初嚼尚疑虚幻物、再嘗方悟実存中」(初めて嚼めばなほ疑ふ虚幻の物。再び嘗めてまさに悟る実存の中)の対句が浮かぶ。平仄押韻は考慮の外なり。レモンクリームの苦味、余韻ひそかに、いとをかし。
著者略歴
小津夜景(おづ・やけい)
1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。
(ヘッダー写真:小津夜景)
無断転載・複製禁止