《十二月二十九日(日)》幾たびも息子はわれを驚かせ驚かせいつか離れてゆかむ

両親はイエスを見て驚き、母が言った。「なぜこんなことをしてくれたのです。御覧なさい。お父さんもわたしも心配して捜していたのです。」すると、イエスは言われた。「どうしてわたしを捜したのですか。わたしが自分の父の家にいるのは当たり前だということを、知らなかったのですか。」しかし、両親にはイエスの言葉の意味が分からなかった。

(ルカ2・48〜50)

著者略歴

大口玲子(おおぐち・りょうこ)

1969年東京都大田区生まれ。宮城県仙台市、石巻市を経て、現在は宮崎県宮崎市在住。1998年、「ナショナリズムの夕立」で第四十四回角川短歌賞受賞。
歌集に『海量ハイリャン』、『東北』、『ひたかみ』、『トリサンナイタ』、『桜の木にのぼる人』、『ザベリオ』、『自由』、歌文集に『セレクション歌人5 大口玲子集』『神のパズル』がある。「心の花」会員。宮崎日日新聞「宮日文芸」短歌欄選者。牧水・短歌甲子園審査員。

 

 

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バックナンバー

  • 12月29日:幾たびも息子はわれを驚かせ驚かせいつか離れてゆかむ
  • 12月28日:ミサ中の息子の所作を真似てをりいつもより深く頭を下げて
  • 12月27日:蜜と乳の流れる土地に約束のあれば喜びも苦悩もありぬ
  • 12月26日:五日ほど冬至を過ぎて口にする冬至といふ言葉のあたたかさ
  • 12月25日:燭の炎の影は揺れながらミサに祈れる心を揺らす
  • 12月24日:救ひ主来たれりわれの足りなさにわれの弱さにわれの渇きに
  • 12月23日:待つことにこんな種類の喜びがあるとは知らずわが人生に
  • 12月22日:心から笑つてほしい 冬の梢見上げ聖霊に満たされて
  • 12月21日:愛はいつまでも残るから 死を以てつぐなひきれぬ罪を思へり
  • 12月20日:宮崎で生まれたやうな顔をして階段のぼり杉の香を吸ふ
  • 12月19日:あらゆる手を尽くして声を上げること冬越えてゆく鵙の鋭さ
  • 12月18日:二倍速の動画のやうに次々にムクドリかへりくる楠並木
  • 12月17日:母を思ひ車窓より見上げたる空のあを牧水の空のかなしさ
  • 12月16日:犬連れて夜をどこまでも歩きたりし母とわれとの記憶の散歩
  • 12月15日:あの人が洗礼者ヨハネだつたのか今にして思ふその指示の機微
  • 12月14日:書くために南京へ行き漢口を見たりし芙美子の昂揚のうねり
  • 12月13日:国境を知らずしきりに降る雪を共有しつつ隣り合ふ国
  • 12月12日:猫抱いて冬の夜を眠るさいはひを知らずのびのびひとりの眠り
  • 12月11日:ゆるさざりしことのいくつかあきらかにあれば冷たき水を飲みほす
  • 12月10日:霧島山見つつ来て山に腰掛ける弥五郎どんに会はずに帰る
  • 12月9日:血を流すことなく抗ひ得るものか見なかつた知らなかつたと声は
  • 12月8日:渇きつつ待つことの恵みはろばろと息子にとつての荒れ野は在らむ
  • 12月7日:化粧して長崎駅に降り立てばしんと静かな母親となる
  • 12月6日:向けられた銃をつかみたるその女の度胸ではなく知性を思ふ 
  • 12月5日:長崎に息子眠りてわれも眠り戒厳令の夜を降る雪
  • 12月4日:日曜の聖書朗読当番を忘れたる夢に蟹は走れる
  • 12月3日:風に心をひるがへしつつ宣教のために立ちたるいくつの港
  • 12月2日:国と国との約束を綴ぢし朱の封蝋に人の指先は見ゆ
  • 12月1日:五時半に起きて祈れる子を思ひ冬の朝の窓を開けたり

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