《二月一日》泡の手につつむ淡菜ムールの二、三片

空を漂う文字は、かつて時の流れのあてどなさそのものだった。気がつくと浮かんでいて、きままに流れ、知らぬまに消えていくもの。でも今は違う。あの塔が管理して、どこからどこへいくのか、ぜんぶ計算されているという。漁師たちでさえ、それを頼りに漁をしているくらいに。でも、わたしは昔ながらのやり方でやる。網と勘だけで狙うんだ。時間が管理できるだなんて、そんなの、嘘だと思うから。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

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  • 2月7日:かぎろひや封蝋滲みぬるい砂丘
  • 2月6日:春の蹄傾ぐ海より迫り上ぐる
  • 2月5日:わたしと夜の余熱まわる小さな靄
  • 2月4日:塔の影カリギュラめきて蜃楼
  • 2月3日:風船の影なきままに風の骨
  • 2月2日:しほさゐにしじまを宿し虚貝
  • 2月1日:泡の手につつむ淡菜の二、三片

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