
《二月五日》わたしと夜の余熱まわる小さな靄
昔は塔なんてなかった。雲も風も、もっと自由だった。深空魚はもっと高いところを泳ぎ、こぼれたうろこが風に乗って、空を満たしていた。でもいつしか人は、時間を手なずけ、道具にしてしまった。そして、過去を眺めず、未来を紡がず、ただ現在という薄い膜の上に生きるようになった。 もう誰も雲を読もうとしない。それなのに、わたしはいまだに雲を追い、こぼれる文字をすなどりつづけている。
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昔は塔なんてなかった。雲も風も、もっと自由だった。深空魚はもっと高いところを泳ぎ、こぼれたうろこが風に乗って、空を満たしていた。でもいつしか人は、時間を手なずけ、道具にしてしまった。そして、過去を眺めず、未来を紡がず、ただ現在という薄い膜の上に生きるようになった。 もう誰も雲を読もうとしない。それなのに、わたしはいまだに雲を追い、こぼれる文字をすなどりつづけている。
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