
《五月四日》風薫る時計の針はさかしまに
足音が近づいてくる。この人──彼女の足取りには、なぜか右足だけが、わずかに砂に沈む癖がある。歩き方というよりも、それはかつて彼女の身体が、何かを書きかけた記憶を持っていたような傾きだった。
無断転載・複製禁止
足音が近づいてくる。この人──彼女の足取りには、なぜか右足だけが、わずかに砂に沈む癖がある。歩き方というよりも、それはかつて彼女の身体が、何かを書きかけた記憶を持っていたような傾きだった。
著者略歴
1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。
(ヘッダー写真:小津夜景)
無断転載・複製禁止