《五月六日》船来ぬ日簾が風によく鳴いた

テントの布が鳴る。彼女が布の端を持ち上げる。風ではない。皮膚の熱で起きた動きだ。指先が、わたしに届く直前で、時間だけがほんのすこし遅れてやってくる。その重さを、わたしは内部でそっと受け止める。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 5月7日:玉巻く葛神託【オラクル】と風ひとつなる
  • 5月6日:船来ぬ日簾が風によく鳴いた
  • 5月5日:サイダーの残響ひかる世の終り
  • 5月4日:風薫る時計の針はさかしまに
  • 5月3日:虹見ゆる鏡のなかの他殺説
  • 5月2日:地鏡を覗き探偵まばたかず
  • 5月1日:春日傘つけ入る余地のなき供述

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