
《六月十日》木苺や塔にささったままの鍵
彼女は一度、本を閉じた。重さは変わらない。けれど、持ち直すたびに、手のなかでじわりと重心が移動する。本の内側で、文字が寝返りを打っているみたいだった。椅子にもたれて、ひとつ息を吸う。空気が冷たくて、背中のほうまで冷える。自分の身体が冷たいのか、空気が冷たいのか、はっきりしない。毛布がずれて、足首に風があたる。足をくるっと巻いて、小さくなる。肺に空気が入りすぎた感じがした。
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彼女は一度、本を閉じた。重さは変わらない。けれど、持ち直すたびに、手のなかでじわりと重心が移動する。本の内側で、文字が寝返りを打っているみたいだった。椅子にもたれて、ひとつ息を吸う。空気が冷たくて、背中のほうまで冷える。自分の身体が冷たいのか、空気が冷たいのか、はっきりしない。毛布がずれて、足首に風があたる。足をくるっと巻いて、小さくなる。肺に空気が入りすぎた感じがした。
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