
《五月一日》春日傘つけ入る余地のなき供述
わたし──mizuk。いちおう書物のかたちをしている。見かけは頁の束、めくれば何かが出てきそうな外観。だが、実際には、あまり期待しないでほしい。わたしの頁には、読まれた記録よりも、読まれなかった痕跡のほうが、はるかに深く沈んでいる。書かなかった人の手の重さ、呼ぼうとしてやめた息──そういった動作の残響が、文字よりも長く残るのだ。
無断転載・複製禁止
わたし──mizuk。いちおう書物のかたちをしている。見かけは頁の束、めくれば何かが出てきそうな外観。だが、実際には、あまり期待しないでほしい。わたしの頁には、読まれた記録よりも、読まれなかった痕跡のほうが、はるかに深く沈んでいる。書かなかった人の手の重さ、呼ぼうとしてやめた息──そういった動作の残響が、文字よりも長く残るのだ。
著者略歴
1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。
(ヘッダー写真:小津夜景)
無断転載・複製禁止