
《五月二日》地鏡を覗き探偵まばたかず
たとえば、石碑の一行目が雨風に擦れて消えているとき、人はそこに、最も重要なことが書かれていたと想像する。あるいは、削られた箇所の意味が、もう読めないという事実によって、逆に浮き彫りになる。あるいは宛名のない封筒。かすれたインクのあとが残っている。わたしは、そうした、意味を失ったさまざまな空白から構成されている。
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たとえば、石碑の一行目が雨風に擦れて消えているとき、人はそこに、最も重要なことが書かれていたと想像する。あるいは、削られた箇所の意味が、もう読めないという事実によって、逆に浮き彫りになる。あるいは宛名のない封筒。かすれたインクのあとが残っている。わたしは、そうした、意味を失ったさまざまな空白から構成されている。
著者略歴
1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。
(ヘッダー写真:小津夜景)
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