永井由紀子句集『周』(しゅう)。
四六判フランス装カバー装。188頁。
著者の永井由紀子(ながい・ゆきこ)さんは、1944年山梨県生まれ、現在広島市在住。1965年「夏草」に入会し「夏草新人賞」を受賞し、同人となる。1984年第1句集『翼船』を上梓、1985年「屋根」入会、1987年古舘曹人指導の「ビギンザテン西の会」に参加、1990年「天為」に入会。現在は「天為」「屋根」同人。2006年に
第2句集『星恋』をふらんす堂より上梓。本句集は、2005年から2015年までの10年間の作品を収録した第3句集となる。序文を「天為」主宰の有馬朗人氏が寄せている。タイトルは「豊かなる詩情」。
句集名「周(しゅう)」は永井由紀子さんの特別な思いがある。
「周」は句材を提供してくれる孫、周太朗の一字です。それに加えて、みんなみんな周く平安であるように、こころから願って集名としました。
「あとがき」より。
本句集の装釘は、和兎さん。
世界地図のイメージで、というのは永井由紀子さんのご希望だった。
グリーンを基調として、陸にあたる部分にパール箔を押した。
それが本句集に艶やかさを与えた。
これほど広い面積に箔押しをするのは、あまりないことなのである。
裏にも。
表紙。グラシンなしのフランス装である。
扉。
栞紐も淡いグリーン。
造本にも凝り、箔押しをふんだんに使い、贅沢な本作りとなったが、出来上りはあくまで瀟洒ですっきりとした一冊となった。
永井由紀子さんの願いをこめた「周」の一文字が、すっきりとしかもはっきりと立ち上がってくる一冊である。
尼寺のあをき網戸を立てて留守
面白いと思った一句である。「網戸」が季語。伝説や神話を背後に感じさせる句が多い永井さんの俳句のなかで、あるいはこれも歴史をふまえた尼寺であるのかもしれないが、できるだけ背後の意味を感じさせず、事実のみを描写している句である。頭韻を踏みながらも最後に「留守」と突き放すように詠みとめているのもいい。「あをき網戸」が(ここにも色が)簡単には人の出入りを許さないような尼寺の清浄感を感じさせる。
(ふらんす堂「
編集日記」2016/09/16より抜粋/Yamaoka Kimiko)