祈る詩[4]―O Holy Night2016.12.1

 

おお、聖なる夜

 

 

おお、聖なる夜

星々は光り輝く

私たちの救い主がお生まれになる夜

 

救い主が地上に来られ 魂の意味を知るまで

永くこの世は 罪と過ちの嘆きの中に

希望を失った世を 喜びに変え

新しき栄光の朝を迎える

 

跪いて 

天使らの歌声を聞け

おお、神聖なる夜!

キリストの生まれし聖なる夜

 

©Megumi Moriyama

 

 

街のイルミネーションがまばゆい12月となりました。

今月はクリスマスの聖歌「おお、聖なる夜」を紹介したいと思います。

 

O holy night

The stars are brightly shining

It is the night of the dear Savior’s birth

 

おお、聖なる夜

星々は光り輝く

私たちの救い主がお生まれになる夜

 

中学高校と私が通ったカトリックの女子校では、 

この聖歌をクリスマス・ミサで歌うのが伝統だった。

高校3年生は学校に宿泊し、12月24日クリスマス・イヴの深夜ミサに参列して、

聖歌隊で歌うことになっていた。「おお、聖なる夜(O holy night)」はそのハイライトで、

最上級生が歌う特別な聖歌となっていたのだ。

 

イヴの聖堂内には幾つも蝋燭が灯り、ポインセチアが飾られる。

祭壇に真っ白のクロスが掛けられ金の十字架や杯などが置かれているのも、聖歌隊席からよく見えた。小さな聖堂はクリスマスの暖かな雰囲気と、何かを「待つ」という、

少し張り詰めたような期待感のようなものに満ちていた。

あの頃は伝統的聖餐式のしきたりも色濃く残っていて、ミサも荘厳で美しかった。

 

O holy night/ The stars are brightly shining…とオルガンの伴奏に合わせて歌い出す。

 

Fall on your knees

O hear the angel voices

O night divine!

 

跪いて

天使らの歌声を聞け

おお、神聖なる夜!

 

転調するこの部分を歌う度、何かこみあげるものがあっていつも感激していた。

 

私たちは英語で歌っていたが、原曲は”Minuit, chrétiens”、

詩を書いたのはフランス人のプラシド・カポー Placide Cappeau (1808-1877)、

作曲はバレエ「ジゼル」で知られるアドルフ・アダンAdolphe Adam(1803-1856)である。近年ではセリーヌ・ディオンやマライア・キャリーもクリスマス・アルバムに収録しているので、ご存知の方も多いだろう。

 

母校は、フランス大革命後1800年パリで生まれた修道会が母体になっている為、

フランスのクリスマス聖歌を大切にしていたのかもしれない。

 

フランス語詩を見ると「真夜中だ、キリスト者らよ!Minuit, chrétiens」の呼び掛けに始まり、より厳格で古典的な響きを感じる。

原罪 ‘la tache originelle (the original sin)’ 

父なる神の怒り ‘le courroux de son Père (the wrath of his father)’

などの言葉は旧約聖書的だ。

地上の闇の世界に神の子が生まれた、という喜びがより直接的に書かれている。

(伝記によれば、詩を書いたカポーは必ずしも宗教的人間だった訳ではないようだ)

作曲家アダンのメロディにより、不朽のクリスマス・ソングとして歌い継がれることとなった。

 

さて、深夜ミサが終わるとクッキーとココアが振る舞われ、やがて就寝時間となった。

私たちは、以前寄宿舎だった旧館に泊まることになっていた。

寄宿舎時代はカーテンなどでキュービクル(個室)に仕切られていたというが、

その頃はもう「オープンスペース」と呼ばれる絨毯敷きの大部屋で、

そこに布団を並べて眠ったのだ。

 

しかし100人ほどの女子高生、しかもクリスマス・イヴ。そう簡単に眠れるはずがない。

そこへなんと真っ赤なバラの花束が届いた。

シスターの厳しい監督をかい潜って、友達の元に届いたのだ。

勿論、ボーイフレンドからだ。携帯もスマホもない時代、全員大興奮となった。

結局20人ほどで毛布を持って屋上に上がり、震えながら長いこと夜空を見ていた。

まさに「星々は光り輝く」夜であった。

 

ミサ前の何かを待つ気持ちを、今も思い出す。

けれどあの頃はまだ若くて「待つ」ことの深い内面的な意味など何も分かっていなかった。

日々はただひたすら忙しく過ぎて、未来は茫漠と広がっていたのだ。

 

最後に、アメリカ人の牧師ジョン・サリヴァン・ドゥワイト(1813-1893)による

英語の詩と、プラシド・カポーによるフランス語の原詩をご紹介します。

皆様も、どうぞ佳きクリスマスとお年をお迎え下さい。

 

 

O holy night

 

O holy night

The stars are brightly shining

It is the night of the dear Savior’s birth

 

Long lay the world in sin and error pining

Till he appear’d and the soul felt its worth.

A thrill of hope the weary world rejoices

For yonder breaks a new and glorious morn

 

Fall on your knees

Oh hear the angel voices

Oh night divine

Oh night when Christ was born

Oh night divine, Oh night divine

 

 

 

Minuit, chrétiens

Minuit, chrétiens, c’est l’heure solennelle

Où l’Homme-Dieu descendit jusqu’à nous,

Pour effacer la tache originelle,

Et de son Père arrêter le courroux.

Le monde entier tressaille d’espérance,

A cette nuit qui lui donne un Sauveur.

Peuple, à genoux, attends ta délivrance

Noël ! Noël ! Voici le Rédempteur!

Noël ! Noël ! Voici le Rédempteur!

 

©Megumi Moriyama

 

 

【略歴】

森山 恵(もりやま めぐみ)

東京生まれ。
1993年 聖心女子大学大学院 英語英文学修了。
2005年第一詩集『夢の手ざわり』ふらんす堂より上梓。
その他詩集『エフェメール』(ふらんす堂)、『みどりの領分』、『岬ミサ曲』(思潮社)。
淑徳大学池袋エクステンションセンターにて2014年「イギリスの詩を読む」講座担当。
NHK WORLD TV 「HAIKU MASTERS」選者。
翻訳書近刊予定。

森山恵ブログ「poesia poesia」

愛読してきた外国の詩など、これからご紹介していきたいと思います。
どうぞよろしくお願い致します。

 

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