上田りん句集『頰杖』。
著者の上田りん(うえだ・りん)さんは、1957年東京生まれ、埼玉県三郷市在住。2006年「古志」入会、長谷川櫂の指導を受ける。2011年「椋」(石田郷子代表)に入会、2013年「古志」を退会し、現在は「椋」会員である。
本句集は2006年から2016年までの10年間の作品を収録した第1句集となる。
序文は石田郷子代表が寄せている。
生きてゐる匂ひと思ふ春の川
梅咲いて鏡の中にゐる如し
秋扇刀の如く納めけり
二つ三つ手にとり一つ撰るレモン
遥かなる人差し指と赤とんぼ
冬うらら布団叩きといふ悪友
不意にまた大きく撥ねて雪の枝
笑ひ声後ろ手に閉め雛の夜
春の卓水輪のやうに皿を置き
空がよく我慢してゐるゑのこ草
きらきらとしてゐるところ冬の水
本句集の装幀は和兎さん。
手触りのある質朴感を失わないように配慮した。
嫌味のない存在感のある句集となった。
飽きのこない一冊だ。こういう本がわたしは好き。
不意にまた大きく撥ねて雪の枝
感覚の独特の冴えを感じさせる思い切った表現の多い作品のなかで、写生句として思わず立ち止まった一句である。さりげない表現だが、雪の枝の様をよく捉えていると思う。
多様な表現の抽出をもっている作者だと思った次第である。
(ふらんす堂「
編集日記」2016/6/21より抜粋/Yamaoka Kimiko)