コダマキョウコ句集『CẢM ƠN』。
句集名「CẢM ƠN」はベトナム語で「ありがとう」の意味。本句集には、九つの章題が立てられているが、すべてベトナム語である。
著者のコダマキョウコ(児玉恭子)さんは、1948年兵庫県生まれ、京都市在住。俳誌「青玄」を経て、「船団」「球」所属。本句集には坪内稔典さんが跋を寄せている。タイトルは「風や光、そして雑貨ーキョウコはライバル」。
春満月すこしわたしに飽きたころ
十月の岬になったのはオルガン
ぶらんこを漕いで世界史は未完成
さくらさくらブエノスアイレスまでさくら
インストールされゆく途中蛍烏賊
枇杷である翼喪失して以来
ふくろうよきみも偏西風なのか
春風も私もやわらかな雑貨
白鳥になるまで試着することも
ひまわりの正面だけを愛したい
このすばらしくユニークな句集の装丁は君嶋真理子さん。
瀟洒で軽やかな句集が出来上がった。
著者のコダマキョウコさんは、「思っていた以上の出来上がり」ととても喜んでくださった。
春風も私もやわらかな雑貨
ひまわりの正面だけを愛したい
坪内稔典さんも好きであるという二句だが、わたしもとりわけ好きな句である。
心の硬直をきらい、自在なイメージを駆使して俳句を書く著者であるが、この二句からわたしは著者の精神のまっとうさのようものを感じる。「ひまわり」は正面をもつ花だ。多くの花はたくさんの角度を持つ。「ひまわり」をおもうときわたしたちはその正面をの姿をおもう。そうであることを望まれて咲く花なのだ。夾雑を排してものの本質にたちむかう、コダマキョウコの純真さを思う「ひまわり」の句であり、しかも自身を「雑貨」とみなす不敵な強靱さがこの人の魅力だと思う。
(ふらんす堂「
編集日記」2016/6/17より抜粋/Yamaoka Kimiko)