岸本尚毅の吟行日記142016.6.30

 

俳句実践講座

岸本尚毅さんが指導をされている句会を取材しています。
実践の場で俳句をどうつくるか、大変参考になると思います。

 

 

●岸本尚毅作
秋晴や鳥のごとくに蝶高く
暑くまた涼しく秋の水に沿ひ
爽やかやざりがに無駄な脚もたず
法師蝉打てば布団のよき響き
一団の大きく疎ら稲雀


●岸本尚毅特選
甲虫死ねば頭の中食はれ  喜代子
をりからの稲穂の中を詣でけり 紀子

●尚毅選
響くなり駅の厠のちちろ虫  定生
秋の風路上の芥走らしむ  章
畳の目にかかりて草の穂絮かな  昌子
コスモスやもの持たぬ手を高く振り  紀子
駅の蕎麦食ふや野分の来つつあり  章
群がりてみな老人や夏帽子  定生
留め置かれ濡れし自転車草の花  定生
稲雀垣荒れてゐる家近く  八重
小流れのあるひは激し草の花  喜代子


●岸本尚毅氏の講評

 

岸本尚毅の吟行日記14


○水音のおたまじやくしはまだ卵

「おたまじやくしはまだ卵」というのは非常に巧いなあ、と思いました。小さな粒みたいで、すこしおたまじゃくしのような形にも見えるんですね、ちょっとく びれが出来てて、それを「まだ卵」と言ったのがいいし、「水音の」という上五もいいですね。かすかに水の音が響いているような感じがあります。こころの中 で思ったことがそのまま言葉になって表現されていて非常に良い句だと思いました。

○いつまでも外明るしと蝶生れ
これも巧い句ですね。日永ということなんですが、いつまでも外が明るいというのは実感がありますよね、そこに「蝶生れ」という季題をつけたのがなかなか技巧として上手いんじゃないかと思いました。

 

岸本尚毅の吟行日記14


○冴返る供花にかならず赤き花

赤い花なんで菊ではないんですよね。何の花かちょっと知りませんが、やはり「冴返る」という体感と花の赤さがうまくマッチしているという感じがあります。

○この墓地に名士あまたや猫の恋
この猫というのが合うんですよね、名士に。「我が輩は猫である」というふうなことをふと連想したりして、これは「猫の恋」のもつユーモラスな感じがうまく出ていると思います。

○おくつきは明るく寒く春の鳥
これも上手い句ですね。「春の鳥」ということで特定していないんですよね。「おくつき」ということばの持つ印象ですよね、ただの墓なんだけど墓と言わず に、「おくつき」というところが確かに明るいような寒いような場所であるということと、春の鳥がいるっていうことがなにかしっくりきますね。

○墓原に覚えありけるあたたかさ
むかし見たような印象ってあると思いますが、同じお寺に確かに来たことがあるというような、そこでふっと感じるあたたかさというのは共感できるものでし て…。かたちから言うと「覚えありけり」で切って「あたたかし」としたほうがいいかもしれません。

○奥つ城に育つ木々あり春の風
これも「奥つ城」ということばが巧く使われていますね。この「育つ」というのがですね、「育つ」と「墓」という概念が逆向きだということもあるんですが、これはそれほど理屈っぽくないですね。

○霊前に言問だんご桜餅
「言問だんご」がいいですね。季題は「桜餅」であるんですが、「言問」ということばの意味が生かされているんじゃないかと思います。

○つつましく笑ふ喪の人桜餅
たしかに、喪中の人がですね、なにか話しかけられてお見舞いのことばを聞いてその反応がつつましく笑うというのはよくわかることです。「桜餅」という季題は、なんというか華があって救いがあっていいのではないですか。

 


 

●おことわり
このページは、俳句愛好者の作句の勉強の一助とする目的で、岸本尚毅さんが句友諸氏と個人的に行っている句会の様子を紹介させて頂くものです。この句会は 私的な会であり、部外者には一切オープンにされておりません。そのため日付・場所・作者名は非公開です。お問い合わせはご遠慮ください。引用された作品の 著作権は、実在する各作品の作者に帰属しますのでご注意ください。

俳句結社紹介

Twitter