岸本尚輝の吟行日記62016.6.30

 

俳句実践講座

岸本尚毅さんが指導をされている句会を取材しています。
実践の場で俳句をどうつくるか、大変参考になると思います。

 

●岸本尚毅作
いくたびも同じところを花吹雪
囀りの濁り高ぶるうれしさよ
九品仏どれも相似て鳥の恋
なにゆゑの小高きところ諸葛菜
花屑の日陰に深し大伽藍
見て立ちて墓のしづけさ百千鳥
地を照らし日輪寂と花の上


●岸本尚毅特選
冴返る即ち風邪を引きにけり  定生
春光は閉じし瞼の内側に  しげ子
花冷の石に落花のひびきけり  夢
小鳥来る古き団地でありにけり  定生
まばたかぬ仁王の前を落花かな  みお

●尚毅選
線香を手に立話花の昼  みお
アンテナに給水塔に薄霞  しげ子
清明や楪にある次なる葉  正子
さつきから穏やかな花筏かな  夢
公園の時計二時指す桜かな  正子
土曜日の小学校の桜かな  夢
実直な車内放送春うらら  朋
花冷えやダイヤの乱れ大幅に  しげ子
石といふあたたかきもの花疲れ  みお
飛花落花腕時計やや遅れぎみ  紀子


●岸本尚毅氏の講評

岸本尚輝の吟行日記6

 


○ 冴返る即ち風邪を引きにけり  定生

この「即ち」は「鯖の旬即ちこれを食ひにけり 虚子」の「即ち」で、ちょっととぼけたような感じがいいですよね。あとで披講で聞いていたら「四月馬鹿即ち 年度替りけり」というのも、聞くといいんですね。披講で真面目に詠まれると妙に可笑しい感じがしていいと思います。

○ 春光は閉じし瞼の内側に  しげ子
目をつむると目のまなうらに色が浮んでくるという句は、ないことはないんですが、この場合は素直に春光というものをしみじみと詠ったところがいいですね。

 

岸本尚輝の吟行日記6


○ 花冷の石に落花のひびきけり  夢

「ひびく」という言葉が比喩というか心象的なんだと、「閑かさや岩にしみ入る蝉の声 芭蕉」の「岩にしみいる」と同じなんだと思いますが、この「花冷え」というのが上にきたので、花冷えの石なので「落花のひびきけり」というのが無理なく伝わったんだとと思います。「花冷え」って花の咲く前の花冷えが一般的かもしれませんけれど、落花のころに冷えるというのもありうると思います。

○ まばたかぬ仁王の前を落花かな  みお
「仁王」と「落花」というのはおそらくよくあると思うのですが、「まばたかぬ」が面白いですね。当り前なんだけど「まばたかぬ」というと、自分が仁王の視線で落花を見ていて、落花が鮮明にみえてくるような感じがして面白いと思いました。

ほかに、「虚子の忌や休むことなく海うごき」というのもちょっと面白いと思いましたが、「休む」がなんとかなるといいですね。この「休む」という擬人法がちょっと惜しい感じがしました。

 


 

●おことわり
このページは、俳句愛好者の作句の勉強の一助とする目的で、岸本尚毅さんが句友諸氏と個人的に行っている句会の様子を紹介させて頂くものです。この句会は 私的な会であり、部外者には一切オープンにされておりません。そのため日付・場所・作者名は非公開です。お問い合わせはご遠慮ください。引用された作品の 著作権は、実在する各作品の作者に帰属しますのでご注意ください。

俳句結社紹介

Twitter