岸本尚毅の吟行日記52016.6.29
俳句実践講座
岸本尚毅さんが指導をされている句会を取材しています。
実践の場で俳句をどうつくるか、大変参考になると思います。
●岸本尚毅作
花ひらの飛びはじめたる夕べかな
花下よかりける車椅子乳母車
うららかや仏の数の九品仏
満目の日の光にも花こぼれ
日本の鳥には非ず花を喰ふ
●岸本尚毅特選
日がはりの暑さ寒さや花衣 麻
●尚毅選
菩提樹の幹ぬくもりて蘖ゆる 昌子
蟻穴を出て松の木に松の風 八江
チューリップけふ洗濯の楽しかり 定生
池凍り厠の水は凍らざり 喜代子
花びらの喪服の人につきやすし 八江
なんべんも名前忘るる木の若葉 章
参道の松より花へ来し小鳥 章
ゆくほどに明るくなりし花の道 昌子
蒲団干す家の桜のよかりけり 定生
あたたかに枯山水の掃かれけり 昌子
沸くほどに湯の音変はる花の昼 麻
花満ちて真下に垂るる枝もあり 定生
花の昼盲のごとく針探す 麻
それは寒き夜の桜でありにけり 定夫
線香の炎となりぬ花の下 紀子
嘴をのばすところに花のあり 章
●岸本尚毅氏の講評
◎日がはりの暑さ寒さや花衣 麻
これはあまり迷うことなくいただきました。「花人」とか「花衣」とか花のなんとかという季題がありますけれど、「花衣」というのはおしゃれをして花見にいくという意味なんですが、だいたい花見の時というのは、暑さと寒さが交錯する時期なんで少し用心して暖かいものを着て行ったりする。気温の変化に弱くなった現代人の花衣ような感じもしていいかなあと。気になったものについて。
○ 花人となり火そばを去りがたく
「花人」という言葉がこなれていないかと思います。「花人」っていわゆる花をめづる風流人というようなことなんですけど、そうじゃなくて、たまたま花を見に来て火のそばを去りがたいというというふうに、たとえば「花を見に来て火のそばを去りがたく」というような方がいいかと思います。
○ 立つて喰ふ座つて喰ふや花盛り
字を見た時はやや俗っぽい感じがしたんですが、音で聞いてみるといいかなという感じがします。「喰う」とか「立つ」とか「座る」とか卑俗な感じがしたんですが耳で聞いたら良かったですね。
○ 鉄路より高き杉菜となりてをり
「より」という比較を使わずに言いたいですね。確かに杉菜の丈がある高さになっているのは分かるのですが、この「より」を使わずに言えたらいいですね。
○ 沸くほどに湯音変りぬ花の昼
「湯音」というのが少し無理があるので、ここは「沸くほどに湯の音変はる花の昼」が良いと思います。
○ 花満ちて真下に垂るる枝もあり
この「枝もあり」は「枝のあり」の方が良いか考えたんですけど、「も」の方がさりげないかもしれませんね。枝のひとつが真下に垂れている、ということだから「も」のほうが自然で肩の力がぬけた感じはしますよね。
○線香の炎となりて花の下
「なりて」ではなく「なりぬ」ですね。
●おことわり
このページは、俳句愛好者の作句の勉強の一助とする目的で、岸本尚毅さんが句友諸氏と個人的に行っている句会の様子を紹介させて頂くものです。この句会は 私的な会であり、部外者には一切オープンにされておりません。そのため日付・場所・作者名は非公開です。お問い合わせはご遠慮ください。引用された作品の 著作権は、実在する各作品の作者に帰属しますのでご注意ください。