岸本尚毅の吟行日記82016.6.30
俳句実践講座
岸本尚毅さんが指導をされている句会を取材しています。
実践の場で俳句をどうつくるか、大変参考になると思います。
●岸本尚毅作
冬木より人老い易し歩み去る
日面に花古びたる椿かな
盛り上がる向うは見えず芝枯るる
うちすすむ寒鯉の目は横にあり
寒鯉の南へ泳ぐめでたさよ
梅よりも椿に寒き風の音
虫を喰ふ仕掛をそこに室の花
日の光室の一花を逸れにけり
雲失せて月の待たるる木の芽かな
●岸本尚毅特選
湯たんぽのほかは求めぬこころかな 昌子
手をおけば氷のごとく寒牡丹 喜代子
梅さぐる土竜の国をその下に 喜代子
噛む音の楽しき冬のサラダかな 章
捨てられぬ父の碁盤と湯婆と みお
花小さく雄蕊の長く寒に入る 昌子
森深く短日の池深みどり 昌子
ソーダ水はじけるやうに霰かな とも
青空は西より来たり寒の入り 喜代子
●尚毅選
探梅のついで詣の墓一つ 八江
胸張つてまつすぐゆける息白し 昌子
戸を引けば蠅の出て行く三日かな 章
寒鯉も泥の落葉もじつとして 紀子
裸木のあらあらしきは桜かな 紀子
風花や鏡のごとく昼の月 章
つつしみて手袋外す墓前かな 喜代子
また霰降つてきさうな雲のあり とも
牡丹乗る植物園の宝船 章
薔薇園の薔薇の根元の霜柱 定生
カーテンを降ろすな冬日あるかぎり 章
探梅の一つ二つに声あげし とも
同じ色して雪吊と枯芝と 定生
読初に風生のこと書かれあり 章
ゆたんぽや雨か霰か窓を打ち 紀子
枯芝に紙飛行機の着陸す 章
初句会植物園に薔薇を見て 定生
探梅や寺のあちらといふところ 八江
顏すでに合はせし人に賀状書く 定生
冬木の芽幹より少しだけ白く 昌子
あをぞらのどこからも来る木の葉かな 八江
薔薇園にやがて止みたる霰かな 喜代子
脚組んで踏ん反り返り日向ぼこ 定生
音ながらきよらに冬の噴水は 喜代子
雪吊のことごとしくぞ鉢の松 喜代子
上連雀下連雀と初霰 紀子
●岸本尚毅氏の講評
○湯たんぽのほかは求めぬこころかな
句の文体はまじめなんですが、言ってることは「湯たんぽだけがあればいい」という ことを言っていて、ちょっとそこに可笑しみが生じるということですね。
○手をおけば氷のごとく寒牡丹
「氷のごとく」がちょっと大げさかもしれませんが、「寒牡丹」のような豪華な強い 季題であれば「氷のごとく」もおさまるのかなあと思います。
○梅さぐる土竜の国をその下に
これは楽しいですね。「土竜の国をその下に」というのは、たしかいまごろなど、土 竜の土の跡っていうのが、梅林で気になるときがあって、それをこういうふうに詠う のはいいですね、写実であり、なにかこう楽しい思いがしますね。
○噛む音の楽しき冬のサラダかな
「冬のサラダ」がいいですね。「冬の○○」とか、季題でないものでなくてただ単に 「冬の○○」のような言い方はむずかしいんですけれど、たとえば水菜のような、西 洋の野菜でもいいんですが、シャキシャキとした感じが、意外に新鮮な感じがしますよね。
○捨てられぬ父の碁盤と湯婆と
「碁盤」と「湯たんぽ」の取りあわせということで人物像が見えてくるんじゃないか なあ、と思いました。
○透く硝子曇る硝子や室の花
これは「透き硝子曇り硝子や」だったのですが、いっそのこと「透く硝子曇る硝子や」 とするとこなれていいのではないのかと思います。これは室の花らしいですね。
○冬めくや高みに松の緑ある
こふっとこう見上げたときに松の緑が目にはいったという、そのふとした感じが上手いと思いました。
○花小さく雄蕊の長く寒に入る
これは花の名前は言ってないんだけれど、山茶花とか椿、あるいは梅でもいいのです が、そのある寒いなかに咲いている感じがでているとおもいます。
○ソーダ水はじけるやうに霰かな
真夏の涼しいものと霰の組合せが面白いし、泡があがったり下ったりしているという のかな、「ソーダ水」の場合は一方向に泡があがってくるような感じなんだと思うの ですが、霰のはずむ感じというのは確かにあるなあと思いました。
○空は西より来たり寒の入り
確かに天気というものは、西のほうから雨になったり晴れたりというほは理屈上も正 しいのですが、この句には空の広がりがあると思いました。
○読初に風生のこと書かれあり
これは「風生と死の話して涼しさよ 虚子」という句があって生きる句なんだとおも います。
●おことわり
このページは、俳句愛好者の作句の勉強の一助とする目的で、岸本尚毅さんが句友諸氏と個人的に行っている句会の様子を紹介させて頂くものです。この句会は 私的な会であり、部外者には一切オープンにされておりません。そのため日付・場所・作者名は非公開です。お問い合わせはご遠慮ください。引用された作品の 著作権は、実在する各作品の作者に帰属しますのでご注意ください。