岸本尚毅の吟行日記152016.6.30

 

俳句実践講座

岸本尚毅さんが指導をされている句会を取材しています。
実践の場で俳句をどうつくるか、大変参考になると思います。

 

 

岸本尚毅の吟行日記15

 

●岸本尚毅作

蝶ならぬものまつすぐに秋日和   
彫刻やもつとも秋を感ぜしめ
面白くなく鳳仙花咲いてをり
目のふちに水の来てゐる秋の蛇
秋草に雲高々と薄々と
行きてまた戻る頭や秋の蛇
穴惑その身ぐにやりと曲りたる
秋風や子供のせたる汽車ぽつぽ
秋扇一つに人の五六人
眼のあたり鱗大きく秋の蛇


●岸本尚毅特選
秋の日の鏡のごとく雲の奥  章
蝉も殻蛇も殻なる秋暑かな  昌子
秋風に散る葉とそこに舞ふ蝶と  薫子
秋の日の直射と反射交錯す  章
蟋蟀の鳴きゐる闇の仔細知る  章

●尚毅選
かき氷風来るところ探しつつ  朋
朝露にまみれし犬の呼ばれたる  章
その下に水琴窟や夏帽子  薫子
秋風や鼻ゆらゆらと象はな子  美緒
筆立の筆に混じりて秋扇  章
江ノ電に坐つて秋の扇子かな  昌子
長き休暇水族館を見て終る  八江
黒き犬秋の団扇に煽がるる  昌子
秋風や空腹いまはここちよく  みどり
八朔や麦の混じりしにぎり飯  朋
あらはれし橋まつすぐや爽やかに  八江
その人のつかふ秋扇小さく見ゆ  八江
噴水を池の真中に秋の風  昌子
彫像の一糸まとはぬ草の花  八江
秋の蝉露こぼしつつゆきにけり  みどり


●岸本尚毅氏の講評

 

岸本尚毅の吟行日記15

 

○秋の日の鏡のごとく雲の奥
これは私だけがいただいた句です。「雲の奥」というのは、確かにちょっと澄んでいる感じがあって、かつこの「鏡のごとく」っていうのがきらめきがあるからやっぱりこれは秋の日のことですね。

○蝉も殻蛇も殻なる秋暑かな
これは多く点が入った句ですね。蝉の殻と蛇の抜け殻という同じ情景のなかで両方あることは多分自然だろうと思うし、その頃の感じというのはちょうど秋暑の頃ですね。わりとこう生(なま)の現場の感じが要領よく詠まれていると思います。

 

岸本尚毅の吟行日記15


○秋風に散る葉とそこに舞ふ蝶と

この句も点が入っていたと思います。これというあまり目立ったところはないんですけど、句全体でなんというのですか、その景色の感じが過不足なくよくとらえられていると思います。

○秋の日の直射と反射交錯す
これは私だけがいただいたかもしれません。秋の日の光の感じって確かに直射という上から来るやつとそれから石だとか蔦なんかに反射している光とか葉っぱに 反射してるのとがあって、この「直射と反射交錯す」というのは秋の太陽の光の角度というのがすごくよく出てます。表現においても「直射」とか「反射」とか 「交錯」とかそんなに俳句らしい言葉ではないんだけれどきっちり形にもはまってますから、技能賞というような俳句ですね。

 

岸本尚毅の吟行日記15


○蟋蟀の鳴きゐる闇の仔細知る

これも私だけいただいたかもしれません。虫が外で鳴いてるんですよね。ただそこになんというか蛇口があったり物置があったり石があったり草があったりということを知ってるんですね。普段知っている庭先だとか家の周りの暗闇に虫の鳴いている闇があるというときの感じがすごくよく出ている。これも感心致しました。

○かき氷風来るところ探しつつ
カップにかき氷を受け取って、ちょっとでも涼しいところで食べようと思って食べる場所を探している感じがすごくよく分かります。

○その下に水琴窟や夏帽子
夏帽子の人がいてその途中に水琴窟がある、というそれだけなんですけど、すごくシンプルで構図がわかります。

○秋風や鼻ゆらゆらと象はな子
点がはいった句ですね。たしかにここ(井の頭動物園)の象はいろんな詠み方があるんだけどやっぱり「鼻ゆらゆらと象はな子」というのがいちばん素直な詠み方ではありますね。

○長き休暇水族館を見て終る
これは少し直しました。原句は「長き休暇水族館にて終る」を「見て終る」として字数があいますのでそう直しました。

○黒き犬秋の団扇に煽がるる
これは「黒犬は」となってましたが、「黒き犬」としたほうがいいでしょう。

○秋風や空腹いまはここちよく
これも秋風の感じですね。

○八朔や麦の混じりしにぎり飯
「八朔」の頃はちょうど稲が穫れる前ですから、お米が足らなくなるころではないかと思うのです。

○彫像の一糸まとはぬ草の花
「一糸まとはぬ」というのはなかなか難しい言葉なんですけど「草の花」によってうまくおさまったという感じがします。

●ほかにワンポイントアドバイス

 ほかに惜しいなとおもったのは、「秋の泉木陰なれども水ひかり」という句なのです が、「木陰なれども水ひかり」は申し分なくて秋の日の感じがよく出ていると思うのです。夏って太陽が真上にありますから木陰は暗いんですが、秋になると太 陽が少し斜めになるからその間から斜めにさしてくる日で意外に暗いところのものがふっと光るという、まったくその通りなのです。ただ「泉」が上五にあって 下五に「水ひかり」と「泉」と「水」が別れているのが読んだときにすっとこない理由なので、上五を「秋の日の」として「木陰なれども水ひかり」と「泉」は 諦めて「水ひかり」にするか、あるいは「秋の水木陰なれどもひかりけり」という手もあるんだけどやっぱりまあひかりを見せるのであれば「秋の日や」ぐらい ですかね、「秋の日や木陰なれども水ひかり」としておけば普通の水たまりでも小流れでもいいんですけどね、たぶん句の本意はそれで充分なのではないかと思 います。

 


 

●おことわり
このページは、俳句愛好者の作句の勉強の一助とする目的で、岸本尚毅さんが句友諸氏と個人的に行っている句会の様子を紹介させて頂くものです。この句会は 私的な会であり、部外者には一切オープンにされておりません。そのため日付・場所・作者名は非公開です。お問い合わせはご遠慮ください。引用された作品の 著作権は、実在する各作品の作者に帰属しますのでご注意ください。

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