なめらかな2016.7.14

 

岡野泰輔句集『なめらかな世界の肉』

岡野泰輔句集『なめらかな世界の肉』

四六判ソフトカバー装。150ページ。
 
「なめらかな世界の肉」とは、句集のタイトルとしてはなんとも印象的なタイトルである。
このタイトルをつけたのはもちろん著者であるが、このタイトル同様本句集は徹底的に著者のこだわりを演出、具現化したものである。著者の意識の上に構築された世界である。
著者の岡野泰輔(おかの・たいすけ)さんは、1945年埼玉生まれ、千葉県我孫子市在住。2004年に「船団の会」に入会、現在「船団の会」の会員。本句集に代表の坪内稔典さんが、帯文を寄せている。
 
 
まず、タイトルありき、である。そこからこの句集の世界ははじまり、そして装画にもちいた五木田智央さんの作品によって句集のイメージは徹底的なものとなった。
 
岡野泰輔句集『なめらかな世界の肉』
 
岡野泰輔句集『なめらかな世界の肉』
 
本句集は著者のこだわりの世界であると書いたが、1945年生まれの人間が今日までのその心と身体に焼き付けられたものがこの句集に動員されている。だから読者はこの句集のなかにある著者の文脈に雁字搦めになってしまいそうに一瞬なる。
目次を紹介したい。
「なめらかな世界の肉」という言葉が呪文のように本句集では繰り返される。
 
 
岡野泰輔句集『なめらかな世界の肉』
 
しかし、坪内稔典さんは帯にこう書く。

分ろうとしない。前から順に読まない。退屈なとき、とても贅沢な気分のとき、なんだか泣きたいとき、ぱらっと何ページ目かを開く。すると、そこにある言葉が話しかけてくるだろう。以上がこの句集のほぼ唯一、そして屈強の読み方だ。私はさっき、花烏賊の笑い声を聞いた。15ページの「崖が見え空が見え花烏賊のゆく」の花烏賊の愉快そうな声だ。

岡野泰輔句集『なめらかな世界の肉』

 
岡野泰輔句集『なめらかな世界の肉』
 
萩尾望都さんに了解をいただき、「ポーの一族」のエドガーの目を岡野さんご自身が似せて描いたもの。「ポーの一族」と題した俳句8句とともに。
 
 
装幀は、装画は五木田智央さん、挿絵は岡野泰輔さん、装幀は和兎サンであるが、徹底して岡野さんのこだわりをデザイン化したものである。
 
岡野泰輔句集『なめらかな世界の肉』
 
岡野泰輔句集『なめらかな世界の肉』
表紙。
 
岡野泰輔句集『なめらかな世界の肉』
 
岡野泰輔句集『なめらかな世界の肉』
 
岡野泰輔句集『なめらかな世界の肉』
見返し。
 
岡野泰輔句集『なめらかな世界の肉』
扉。
 
岡野泰輔句集『なめらかな世界の肉』
 
岡野泰輔句集『なめらかな世界の肉』
迫力のある一冊である。
 
俳句をはじめなければ決して会えなかった人に会え、世の中にこれだけ俳句に入れあげている人がいて、いつの間にか自分もそのひとりになっていることにさらにびっくりする。
「あとがき」でこう書く岡野泰輔さんである。
 咲くたびに年寄るこども大花火
 
たしかにそうである。人間は確実に一刻一刻と死に向っているのである。子どもと言えどもそれは免れない。花火を無邪気に喜んでいるのは子どもだが、大人は花火の美しいはかなさを充分に知っている。花火を見入る子どもに「年寄る」という言葉がその現実感を増す。
 
 
(ふらんす堂「編集日記」2016/7/12より抜粋/Yamaoka Kimiko)

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