オーザ *時を作り出す指先2022.7.5

 

 

 

詩人・そらしといろと歌人・松野志保によるつれづれ連載。旅の出来ない日常から抜け出してふたりの作り出すキャラクターが架空の世界を旅します。
SNSで知り合った顔の知らないふたりが、ひとりは最北から、ひとりは最南端から――果たしてふたりは世界の真ん中で出会うことができるのか。手紙のように作品を交換して一歩ずつ近づいていくふたり。
月2度の静かな熱の交換をお楽しみに。

 

 

 

オーザ *時を作り出す指先

〈J〉

北も南も

西も東も

少しずつ

平らかな時間が

泡立つ波に奪われつつある

情報に感情は揺れ

森を抜け山を越える

バスも揺れ

どの町も

和やかにあれと思う

 

***

 

君が砂丘を進むと聞いて

砂時計をイメージした

落下する砂に計られてゆく

時間の厚みや重さ

たどり着いたオーザの町は

精密機械作りが盛んで

小さな時計工房がたくさんある

ゼンマイと歯車が

安定して動く様子に

不思議な気持ちになる

ここまで旅する間も

時間は一定して流れたのに

とても速く

日々を越えてきたようで

北上する君には

時間はどう流れただろう

非日常の

旅に身を置くと

時間はバネのように

伸びたり縮んだりする

 

***

 

思いついて

手巻きの腕時計を二つ買った

一つは君に 一つは僕に

真ん中の町で出会う日まで

君の時計を毎日巻こう

真ん中の町から始まる

新たな時間のために

 

***

 

なんだか久しぶりに海が見たい

海沿いの町、イセンダを目指す

 

 

Distance to you: 16,000km left.

 

――そらしといろ

 

 

 

 

作者略歴

そらしといろ(そらし・といろ)

Twitter:@cv1016 ブログ:citron voice
1988年生まれ、埼玉県出身。2013年、思潮社より刊行した第一詩集『フラット』(思潮社)で、第24回歴程新鋭賞を受賞。心が萌えたときの感覚を言葉で掴もうとしている。詩集『暁を踏み割って行く』(ふらんす堂)、『もうずっと静かな嵐だ』(ふらんす堂)

 

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