オダリヲン 誰かが残した2023.1.25
オダリヲン 誰かが残した
〈R〉
オダリヲンの町は美しいものであふれている
広場には彫刻
街路に流れる歌や叙事詩
苦しみを花に
痛みを宝石に変えて
作り手が消えたあとも長く町を彩る
真夜中に夜明けを描けばパレットに互いを侵しゆく紅と藍
飴色を増すヴァイオリン亡命の前より長い後の月日に
「僕たちは」綴りはじめてそののちはまだ空白の一幕一場
おそらくは君に似た肖像画や
君について書かれた物語もあるだろう
そして、詩になれなかった言葉
旋律になりそこねた音も
町のそこかしこにちらばっている
少年が羽根ペンを取り「永遠」と記してペンを置く自動人形
かろやかに不協和音を奏でゆく十指に十の指輪のひかり
明けぬ夜に残しゆくなら一編の人生よりも美しい詩を
では、ジャミノフで
Distance to you: 640km left.
――松野志保
作者略歴
Twitter:@matsuno_shiho
1973年、山梨県生まれ。東京大学文学部卒業。高校在学中より短歌を作り始め、雑誌に投稿。1993年、「月光の会」(福島泰樹主宰)入会。2003年から2015年まで同人誌「Es」に参加。
歌集『モイラの裔』(洋々社)、『Too Young To Die』(風媒社)、『われらの狩りの掟』(ふらんす堂)
無断転載・複製禁止