タオーキ *オレンジ味の幸せな時間2022.12.5

 

 

 

詩人・そらしといろと歌人・松野志保によるつれづれ連載。旅の出来ない日常から抜け出してふたりの作り出すキャラクターが架空の世界を旅します。
SNSで知り合った顔の知らないふたりが、ひとりは最北から、ひとりは最南端から――果たしてふたりは世界の真ん中で出会うことができるのか。手紙のように作品を交換して一歩ずつ近づいていくふたり。
月2度の静かな熱の交換をお楽しみに。

 

 

 

タオーキ *オレンジ味の幸せな時間

〈J〉

青白く燃える星も

つれない猫たちの瞳も

あたたかさを宿していること

北から南の

南から北の

夜空を彩る星座が

少しずつ重なってゆく

僕らが出会うとき

空はほんとうに

一枚に縫い合わさるだろう

それぞれに見てきた

町の景色の断片を

語りながら紡いで

一つの世界を眺めたい

 

***

 

タオーキの市場には

今が旬だという

オレンジの果実が

山積みになっていた

この辺りでは

冬頃にオレンジの

収穫を迎えるそうだ

太陽のような

ひとつひとつの輝きに

市場はひときわ明るい

オレンジの皮の

砂糖漬けを

味見させてもらった

幼い頃

風邪をひいたときに

飲んだ水薬の味を

思い出して

その味にまつわる

まだ若かった両親の

あたたかな腕に

抱かれて眠った

ささやかな幸せの

記憶がよみがえった

 

***

 

年明けにはルツの町へ向かう

真ん中の町まで

君と出会うまであと少し

 

 

Distance to you:6,300km left.

 

――そらしといろ

 

 

 

 

作者略歴

そらしといろ(そらし・といろ)

Twitter:@cv1016 ブログ:citron voice
1988年生まれ、埼玉県出身。2013年、思潮社より刊行した第一詩集『フラット』(思潮社)で、第24回歴程新鋭賞を受賞。心が萌えたときの感覚を言葉で掴もうとしている。詩集『暁を踏み割って行く』(ふらんす堂)、『もうずっと静かな嵐だ』(ふらんす堂)

 

無断転載・複製禁止

俳句結社紹介

Twitter