マヤコリー *饒舌な美酒2022.9.5

 

 

 

詩人・そらしといろと歌人・松野志保によるつれづれ連載。旅の出来ない日常から抜け出してふたりの作り出すキャラクターが架空の世界を旅します。
SNSで知り合った顔の知らないふたりが、ひとりは最北から、ひとりは最南端から――果たしてふたりは世界の真ん中で出会うことができるのか。手紙のように作品を交換して一歩ずつ近づいていくふたり。
月2度の静かな熱の交換をお楽しみに。

 

 

 

マヤコリー *饒舌な美酒

〈J〉

マヤコリーはワインの町

そう案内されて

心は浮かれて

ちょっといいホテルで

白ワインを片手に

君への便りを書いている

そういえば君は

僕と同じくらいか 年上か

年若いのか気になるところ

もし君もお酒を飲めるなら

初めて出会う記念に

杯を酌み交わしたい

その頃には冬の終わりの

真ん中の町で親しまれている

すてきなレストランにて

 

***

 

大陸横断鉄道をゆく

君の静かな旅を想う

果てしなく広い平原を

列車はまっすぐに行くのだろうか

僕らの一年をかけての旅よりも

もっと長い時間をかけて

線路を敷いた人々が

かつて平原で交わした言葉を

君の耳はたしかに拾って

僕へ届けてくれた

 

***

 

マヤコリーはワインの町

心地よく酔っている

やわらかなソファーにもたれて

窓から見える

暮れてゆく町の

暖かなひかりが

グラスに満ちながら

すっと消えていった

 

あと数日

この町に滞在して

ワイナリーを巡ってみる

次に向かう町は シカザキワ

大きな川の向こう側

少しずつ季節を超えて

空も高くなってゆくだろう

 

 

Distance to you: 11,500km left.

 

――そらしといろ

 

 

 

 

作者略歴

そらしといろ(そらし・といろ)

Twitter:@cv1016 ブログ:citron voice
1988年生まれ、埼玉県出身。2013年、思潮社より刊行した第一詩集『フラット』(思潮社)で、第24回歴程新鋭賞を受賞。心が萌えたときの感覚を言葉で掴もうとしている。詩集『暁を踏み割って行く』(ふらんす堂)、『もうずっと静かな嵐だ』(ふらんす堂)

 

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