ノトー *浅い眠り、精霊の森2022.6.5

 

 

 

詩人・そらしといろと歌人・松野志保によるつれづれ連載。旅の出来ない日常から抜け出してふたりの作り出すキャラクターが架空の世界を旅します。
SNSで知り合った顔の知らないふたりが、ひとりは最北から、ひとりは最南端から――果たしてふたりは世界の真ん中で出会うことができるのか。手紙のように作品を交換して一歩ずつ近づいていくふたり。
月2度の静かな熱の交換をお楽しみに。

 

 

 

ノトー *浅い眠り、精霊の森

〈J〉

なにとなく

眠りそびれて

君からの便りを

繰り返し読む

夜明けが訪れて

紅と金色の朝日のなか

七つの塔のまぼろしを想い描く

君がいた町を見渡せる

その目線の高さを

今、共有できている気がする

 

***

 

頭の上に小鳥を一羽

載せているつもりの

俯瞰する感覚を遊ばせて

ノトーの深い森をゆく

森番のおだやかな声で

案内される木々や草花の名前

遠い日々の人々が

それらの植物に宿る

精霊を信じており

たくさんの物語を残した

薄日の射す森の

湿った土の匂いに

図書室の書庫を思えば

この森そのものが

広大な図書室であり

体感する物語なのだ

栞をはさむように

息を細く長く吐く

そして息を吸った身体は

物語の新たな一部となる

 

***

 

緩やかに南を目指しつつも

この辺りの夏は短いらしく

その間に咲く花は

本当に内側から光るようで

その明るさを記憶に灯す

青白く照らされる

脳内の地図を眺めて

オーザという地名を

口ずさんでみる、オーザ

起きたら、バスの路線を調べてみる

 

 

Distance to you: 18,000km left.

 

――そらしといろ

 

 

 

 

作者略歴

そらしといろ(そらし・といろ)

Twitter:@cv1016 ブログ:citron voice
1988年生まれ、埼玉県出身。2013年、思潮社より刊行した第一詩集『フラット』(思潮社)で、第24回歴程新鋭賞を受賞。心が萌えたときの感覚を言葉で掴もうとしている。詩集『暁を踏み割って行く』(ふらんす堂)、『もうずっと静かな嵐だ』(ふらんす堂)

 

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