ウダマヤは祭りの中2022.10.22

 

 

 

詩人・そらしといろと歌人・松野志保によるつれづれ連載。旅の出来ない日常から抜け出してふたりの作り出すキャラクターが架空の世界を旅します。
SNSで知り合った顔の知らないふたりが、ひとりは最北から、ひとりは最南端から――果たしてふたりは世界の真ん中で出会うことができるのか。手紙のように作品を交換して一歩ずつ近づいていくふたり。
月2度の静かな熱の交換をお楽しみに。

 

 

 

ウダマヤは祭りの中

〈R〉

 

 

終わらない祝祭の町ウダマヤ
人は言う「この町で生まれ、この町で死ぬ者は幸いである」

 

 

 

華やいだ町の真中にそっと置く水銀で満ちた盃ひとつ

 

絶え間なく降りそそぐ花 歌っても愛を告げても口中に花

 

 

 

「この町を訪れる者も幸いである」
遠く離れた場所にありながら君も僕も花の香りの中にいる

 

 

 

 

いのりの言葉くちずさみつつ抱きしめる人は日暮れを日暮れは人を

 

ほほえみの上には仮面 しずしずと広場の中心へと歩みつつ

 

祝祭も続けばやがて日常になることを容れ 骰子を振る

 

小夜ふけて路地の硝子はすべて割れ銀河を踏んで踊る一群

 

終わらない祭りの中で名も知らぬ人と花火の火をわけながら

 

 

 

「この町を去りゆく者もまた幸いである
ウダマヤを思い出し懐かしむことができるから」
僕もいずれ君に会うことができたら
ここで覚えた歌を、祈りの言葉を聞かせようと思う

 

 

Distance to you: 9,510km left.

 

――松野志保

 

 

 

 

作者略歴

松野志保(まつの・しほ)

Twitter:@matsuno_shiho

1973年、山梨県生まれ。東京大学文学部卒業。高校在学中より短歌を作り始め、雑誌に投稿。1993年、「月光の会」(福島泰樹主宰)入会。2003年から2015年まで同人誌「Es」に参加。

歌集『モイラの裔』(洋々社)、『Too Young To Die』(風媒社)、『われらの狩りの掟』(ふらんす堂)

 

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