マングナカーン *温もりの記憶2022.11.5
マングナカーン *温もりの記憶
〈J〉
真ん中の町へと
ただ真っすぐに
向かってしまえば
見えてこなかった
景色を互いに分かち合い
花の香りのなかを
通って行った僕ら
君から祝祭の歌を
聞かせてもらったら
花の色まで見えてきそうだ
***
マングナカーンの町には
少し変わった宿がある
宿の主として
一匹の猫が
大事に飼われている
今は白猫の
ルーナが宿の主だ
僕もかつて
一匹の猫と暮らしていた
黒猫で
名前はロロという
ロロを亡くして七年が経つ
ロロのことを忘れた日はない
ルーナは宿の主だけあって
人間が好きらしい
僕の足にまとわりつく
その姿にロロを重ねて
ルーナの優しさに感謝する
***
近すぎず遠すぎず
絶妙な距離感で
人間や生き物の温もりは
ほどよく心へなじんでゆく
君と真ん中の町で出会うまで
あと数千キロを
あと数カ月かけて縮めてゆく
こうして便りを重ねると
君はすでに僕の目の前に
いる気がするのだけれど……
***
色づく景色に上着を一枚羽織って
タオーキまでの移動を楽しむ
Distance to you:8,800km left.
――そらしといろ
作者略歴
Twitter:@cv1016 ブログ:citron voice
1988年生まれ、埼玉県出身。2013年、思潮社より刊行した第一詩集『フラット』(思潮社)で、第24回歴程新鋭賞を受賞。心が萌えたときの感覚を言葉で掴もうとしている。詩集『暁を踏み割って行く』(ふらんす堂)、『もうずっと静かな嵐だ』(ふらんす堂)
無断転載・複製禁止