カラファティア~メザ 夢で見たのと同じ広場で2022.5.20
カラファティア~メザ 夢で見たのと同じ広場で
〈R〉
明け方に到着したカラファティアの町には七つの塔と
もう座る者のいない玉座があった
ひときれのパン贖うに廃された王の美貌をとどめる硬貨
辻ごとに芸人たちは彫像のふり始まらぬ永遠を待ち
目瞑れば遠いみずうみその岸で君がやさしい葦であること
物売りが差し出す果実食めばまたこの町に戻れるとささやき
少しだけ傾く塔の下失くしても気づかないものを抱えて
古書店のあるじ喪服に身を包み火の冷たさを教えてくれる
花々は空の玉座に降りかかり 目には目をこころには心を
君に会うのに僕はうんと遠回りをしたい
終点まで
駅でそういって差し出された切符にはメザと書かれていた
僕が去る町の窓辺に薔薇の黄はこぼれてきっとおそらくどうか
Distance to you: 15,540km left.
――松野志保
作者略歴
Twitter:@matsuno_shiho
1973年、山梨県生まれ。東京大学文学部卒業。高校在学中より短歌を作り始め、雑誌に投稿。1993年、「月光の会」(福島泰樹主宰)入会。2003年から2015年まで同人誌「Es」に参加。
歌集『モイラの裔』(洋々社)、『Too Young To Die』(風媒社)、『われらの狩りの掟』(ふらんす堂)
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